
🌟病因とは?東洋医学における原因分類
東洋医学では、病の発生には必ず「原因(病因)」があると考えられます。
病因は大きく3つに分類され、それぞれ異なるメカニズムで身体に影響を与えます。
- 外感病因:六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)および疫癘など、自然界の環境変化に由来
- 内傷病因:七情(怒・喜・思・憂・恐・悲・驚)、飲食の不摂生、労倦、房事過多など、主に情緒や生活習慣由来
- 不内外因:痰湿、瘀血、内生五邪、外傷など、外でも内でもない複合的要因
① 外感病因(六淫・疫癘)
六淫とは、自然界の「風・寒・暑・湿・燥・火」の六つの異常な気候変化が人体に悪影響を及ぼすものです。
本来これらは「六気」として自然の一部ですが、過度になると「邪気(病邪)」に変わり、人体に侵入して病を引き起こします。
また、「疫癘(えきれい)」は、急性で集団発生する感染症を意味し、現代でいえばインフルエンザやCOVID-19のような病を含みます。
六淫は気候の変動と密接に関係しており、以下のような特徴を持ちます:
- 風邪:春、移動性の痛みやかゆみ、頭痛
- 寒邪:冬、冷え、関節痛、悪寒
- 暑邪:真夏、高熱、多汗、口渇
- 湿邪:梅雨~夏、重だるさ、むくみ、関節の腫れ
- 燥邪:秋、乾燥、空咳、皮膚のカサつき
- 火邪(熱邪):高熱、口内炎、精神不安、炎症
六淫 | 性質 | 特徴・影響 |
---|---|---|
風邪 | 軽揚性・開泄性・遊走性 | 上部や体表を侵し、変化が速く痛みが移動する |
寒邪 | 寒冷性・収引性・凝滞性 | 陽気を損傷し、気血を阻滞する |
暑邪 | 炎熱性・昇散性 | 津液を傷つけ、気を消耗しやすい |
湿邪 | 重濁性・粘滞性・下注性 | 脾胃に影響し、停滞・むくみ・だるさを起こす |
燥邪 | 乾燥性 | 肺や津液を乾かし、口や鼻の乾燥を生じる |
火邪 | 炎上性・生風・動血 | 熱が激しく、気血を乱しやすい |
② 内傷病因(七情・飲食・労倦・房事)
内傷病因とは、身体の内部から引き起こされる病因です。
特に精神的ストレスや感情の変動は、五臓に直接影響を与えるとされ、「七情内傷」と呼ばれます。
例:
- 怒:肝に影響 → 肝気上逆 → 頭痛やめまい
- 喜:心に影響 → 心気緩 → 不眠・動悸
- 思:脾に影響 → 脾気鬱結 → 食欲不振
- 憂・悲:肺に影響 → 肺気虚 → 呼吸浅く、ため息
- 恐・驚:腎に影響 → 腎気下脱 → 尿失禁や腰のだるさ
また、「飲食不節」「過労(労倦)」「房事過多」は、気血津液の消耗・失調を引き起こします。
特に現代人に多いストレスや食生活の乱れは、東洋医学的にも病因と捉えられます。
情志 | 影響する臓 | 典型的な病機 |
---|---|---|
怒 | 肝 | 肝気上逆、頭痛、めまい、怒りっぽい |
喜 | 心 | 心気緩、精神散漫、不眠 |
思 | 脾 | 脾気結、食欲不振、疲れ |
憂・悲 | 肺 | 肺気虚、ため息、呼吸浅い |
恐・驚 | 腎 | 腎気下脱、失禁、健忘 |
③ 不内外因(痰湿・瘀血・外傷など)
外因でも内因でも説明しきれない原因を「不内外因」と分類します。特に次のものが重要です:
- 痰湿(たんしつ):代謝異常によって生成される体内の濁った液体。咳、痰、めまいなどを生じる
- 瘀血(おけつ):血の停滞や瘀滞による痛みやしこり、月経異常など
- 内生五邪:体内で風・寒・暑・湿・燥・火が異常発生する状態(例:内風によるけいれんなど)
- 外傷:打撲・捻挫・骨折・手術などによる直接的な損傷
これらは、目に見えにくいけれど慢性化しやすく、他の病因とも複雑に絡み合うため、臨床でも注意が必要です。
国家試験では、「どの分類に属するか」「五臓との関係はどうか」などを問う問題が多く出題されます。各病因の特徴を正確に覚えておきましょう。
🌟頻出パターン対策まとめ
- 風邪 → 遊走性・百病の長・春・肝
- 湿邪 → 粘滞性・下注性・脾・だるさ
- 火邪 → 動血・生風・心・炎上性
- 寒邪 → 凝滞性・陽気を損傷・腎・収斂性
- 暑邪 → 気・津液を消耗・心・小腸
- 燥邪 → 肺を傷る・乾燥性
試験では「症状(例:遊走性の痛み)」→「六淫」→「臓腑」と三段階で問われる問題が多いため、各要素の結びつきで覚えると得点に直結します。
🌟国家試験過去問
第3回-101
内因はどれか。
- 房事過多
- 飲食労倦
- 六淫
- 七情の乱れ〇
第7回-103
不内外因でないのはどれか。
- 過労
- 過食
- 暑熱 〇
- 外傷
第9回-103
病因についての記述で適切でないのはどれか。
- 飲食労倦は脾をおかしやすい。
- 風邪は肝をおかしやすい。
- 湿邪は心をおかしやすい。〇
- 房事過多は腎をおかしやすい。
第17回-97
病邪と損傷する対象との組合せで正しいのはどれか。
- 火邪 ─── 気 〇
- 燥邪 ─── 血
- 湿邪 ─── 津液
- 風邪 ─── 営気
第18回-94
外邪とその性質との組合せで誤っているのはどれか。
- 風邪 ─── 衛気を犯し、変化しやすい。
- 湿邪 ─── 脾胃を犯しやすい。
- 暑邪 ─── 気と津液を消耗する。
- 寒邪 ─── 内風を生じる。〇
第22回-96
外邪の特徴で正しいのはどれか。
- 湿邪は身体下部を侵す。〇
- 風邪は津液を消耗する。
- 燥邪は体表を侵す。
- 暑邪は肺を傷る。
第30回-95
外邪とその特徴の組合せで正しいのはどれか。
- 風邪 ――― 動血
- 寒邪 ――― 重濁
- 暑邪 ――― 昇散 〇
- 湿邪 ――― 凝滞
風の問題
第3回-102
次の文で示す外邪はどれか。 「百病の長ともいわれ、春に多く発病し、多くは皮毛から侵入する。」
- 湿
- 風 〇
- 燥
- 寒
第21回-98
外邪で遊走性の痛みを起こすのはどれか。
- 湿邪
- 燥邪
- 火邪
- 風邪〇
第24回-94
次の文で示す症状の病因はどれか。 「2日前から喉が痛む。鼻がつまり、頭が痛く、顔がむくむ。」
- 風邪 〇
- 湿邪
- 暑邪
- 燥邪
第26回-95
次の文で示す患者の症状を引き起こす六淫で最も適切なのはどれか。 「40歳の女性。昨日、外出後、頭痛、鼻づまり、咽喉部の痒み、眼瞼および顔面の浮腫が発生した。顔面麻痺様の症状もある。」
- 暑邪
- 湿邪
- 風邪 〇
- 寒邪
第28回-94
急にめまい、けいれんを起こすのはどれか。
- 内風 〇
- 内寒
- 内湿
- 内燥
暑の問題
第5回-103
五悪(五気)と五腑との組合せで正しいのはどれか。
- 風 ─── 大腸
- 暑 ─── 小腸 〇
- 燥 ─── 膀胱
- 寒 ─── 胃
第31回-98
六淫で生風を特徴とするのはどれか。
- 風邪
- 暑邪
- 火邪〇
- 燥邪
第24回-93
外邪とその特徴の組合せで正しいのはどれか。
- 火邪 ――― 動血〇
- 寒邪 ――― 粘滞性
- 湿邪 ――― 遊走性
- 風邪 ――― 収斂
湿の問題
第12回-103
外因で体重節痛を引き起こすのはどれか。
- 燥邪
- 寒邪
- 湿邪 〇
- 風邪
第14回-101
外邪で動きが遅く停滞する性質をもつのはどれか。
- 風邪
- 湿邪 〇
- 熱邪
- 燥邪
第4回-104
湿邪について誤っている記述はどれか。
- 脾・胃をおかしやすい。
- 津液を消耗しやすい。〇
- 陰性の邪気である。
- 重く停滞する。
第25回-94
次の文で示す患者の症状を引き起こす六淫はどれか。 「55歳の女性。梅雨の頃より頭や体が重く、四肢がだるくなり、関節が腫れ、下痢をするようになった。」
- 寒邪
- 暑邪
- 湿邪 〇
- 風邪
第27回-91
「関節がだるく痛み、頭が重くなる。」の症状を引き起こす病邪の特徴はどれか。
- 昇散性
- 粘滞性 〇
- 収引性
- 開泄性
第29回-99
次の文で示す症状を引き起こす六淫の性質に含まれるのはどれか。 「梅雨の時期から体が重く下肢がむくみ、下痢をするようになった。」
- 昇散性
- 遊走性
- 収引性
- 粘滞性 〇
第23回-99
「56歳の男性。主訴は食欲不振。腹部の痞えや膨満感、重痛を伴う。口が粘る、口苦、臭いの強い下痢がみられる。」 最も適切な病証はどれか。
- 陽虚
- 陰虚
- 湿熱 〇
- 気滞
寒の問題
第16回-99
次の文で示す病証から最も考えられる邪気はどれか。 「冷たいビールを飲み、そのままクーラーの効いた部屋で寝て、下痢をした。」
- 湿邪
- 寒邪〇
- 燥邪
- 風邪
第17回-96
寒邪の特徴でないのはどれか。
- 収斂作用をもつ。
- 気血を阻滞する。
- 遊走性をもつ。 〇
- 陰性の外邪である。
第23回-94
外邪で収斂作用をもち、皮毛を収縮させるのはどれか。
- 湿邪
- 寒邪 〇
- 風邪
- 暑邪
その他
第28回-89
次の文で示す患者の病因で最も適切なのはどれか。 「34歳の男性。1週間前に上司から販売業績が悪いことを責められた。それ以来、やる気がでない。 声に力がなく、食欲もない。」
- 労倦〇
- 湿邪
- 怒
- 飲食不節
第30回-98
次の文で示す患者の病因で最も適切なのはどれか。 「28歳の女性。年末年始に接客が多忙だった。その後、徐々に気力がなくなり、疲れやすく、接客がつらい。」
- 思
- 労倦 〇
- 寒邪
- 飲食不節