
こんにちは。
プライマリ・ケアサポート きらぼし、鍼灸師・看護師のKagayaです。
今回は「理学療法士によるドライニードル施術とリハビリの併用」について、少し掘り下げて考えてみたいと思います。
🌟 ダブルライセンスの時代と鍼灸師の未来
近年、鍼灸の専門学校や大学には、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師といった既に国家資格を持っている方が、治療の幅を広げる目的で入学してくるケースが増えています。
最近ではさらに、看護師や理学療法士などのリハビリ職、薬剤師など、医療職としてのバックグラウンドを持つ人が鍼灸を学ぶ姿も見られるようになってきました。
このように、いわゆる「ダブルライセンス」を取得することで、医療やケアの現場における活動の幅が大きく広がる可能性があります。
ただし、現状では保険診療の枠組みで鍼灸を行うことは難しく、多くの場合は自費診療としての提供になります。
たとえば看護師が鍼灸師の資格を持っていても、看護師として医療機関で勤務している限り、その職場で鍼灸施術を行うことはほとんどありません。
仮に「鍼灸治療を行っている医師」がいるクリニックで、看護師が医師の診療補助として「合谷と内関に鍼を打って」といった指示を受けた場合、法律的には、鍼灸師の資格を持たない看護師でも医師の指示で鍼を刺すことは、理論上は可能かもしれません。
……とはいえ、実際にそんな指示を出す医師は、まずいないでしょうけれど。
リハビリ職のひとつである理学療法士も、医師の指示に基づいて理学療法(運動療法・物理療法)を行う職種です。
ということは、もし医師から「この部位に鍼を打ってほしい」といった具体的な指示があった場合、理学療法士も鍼灸的な手技を行えるのではないか……? そんな可能性について考えたことがありました。
もっとも、現実的にはそうした指示を出す医師がほとんどいないため、法的な可能性はさておき、実際に理学療法士が鍼を施術する機会はほぼないと言っていいでしょう。
ただ、もし今後、特定の研修や認定資格の整備によって、理学療法士をはじめとする医療従事者にも鍼灸の施術が一部認められるようになれば、リハビリテーションの場での治療効果は大きく高まるのではないかと感じています。
実際、アメリカのいくつかの州では、理学療法士が「ドライニードル」という鍼の技術を使用することが正式に認められています。
日本でも、もし理学療法の手技のひとつとしてドライニードルが導入できるようになれば、痛みや拘縮に対するアプローチの選択肢が増え、より実効性の高いリハビリが行える可能性があります。
とはいえ、現実的には法律や制度の整備、研修体制、コスト面の課題など、クリアしなければならない壁は多く、すぐに実現するのは難しいかもしれません。
今回は、そんな「理学療法士によるドライニードル施術」と「リハビリテーション」の可能性について、Kagayaなりに考えてみた内容をお届けします。
🌟 理学療法士の業務内容と法的な位置づけ
あはき法
医師以外の者で、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅうを業とするためには、それぞれの免許(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)を取得しなければならない。
つまり、鍼を用いて治療を行うためには、「はり師」の国家資格が必要です。
一方で、医師については、鍼やマッサージの専門的な教育を受けていなくても、法律上これらの手技を医師の裁量で治療に用いることが認められています。
では、理学療法士はどうでしょうか?
理学療法士及び作業療法士法
この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行わせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
このように、理学療法には「マッサージ」や「電気刺激」「温熱」などの物理的手段が含まれるとされています。
ただし、理学療法士がこれらを業として行うには、次のような条件があります。
理学療法士及び作業療法士法
「理学療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、医師の指示のもとに理学療法を行うことを業とする者をいう。
つまり、理学療法士は医師の指示がなければ、そもそも理学療法としての施術を行うことはできません。
ここで気になるのが「その他の物理的手段」という表現です。この中に、もし鍼の手技が含まれると解釈できる余地があるとすれば、医師の指示のもとで理学療法士が鍼を使うことが可能になるのでは?と考える方もいるかもしれません。
ですが実際のところ、「この筋肉を緩めるために鍼を刺してほしい」といった具体的な指示を理学療法士に出す医師は、ほとんど存在しないのが現状です。
そもそも医師の指示がなければ、理学療法士は何ひとつ治療行為を行うことができません。
理学療法士の業務は、あくまで医師の指示のもとに実施される「理学療法」に限定されており、その主な目的は、身体機能の回復や維持、つまりリハビリテーションの支援です。
🌟 理学療法士と鍼灸師の制度比較と業務範囲の違い
理学療法士(PT)は、医師の指示のもとで「運動療法」や「物理療法」を実施できる職種です。
日本ではドライニードル(鍼刺激)をPTが単独で施術することは認められていません。
しかし、アメリカの一部州では、理学療法士がドライニードル技術を用いることが可能であり、実際にその効果も報告されています(参考:American Physical Therapy Association)。
日本でも、PTがドライニードルを導入できれば、拘縮や疼痛へのアプローチがより迅速になり、リハビリテーションの質が高まる可能性があります。
ただし、日本国内では「あはき法(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律)」により、鍼を業として扱うには「はり師」の免許が必要です。
🌟 理学療法士と鍼灸師の関係性
現在の日本では、理学療法士が鍼を用いたリハビリを行うことは法的に認められていません。
一方、アメリカの一部の州では「ドライニードル」という手技が理学療法士にも認可されており、現場で実施されています。
そのためアメリカでは、鍼灸師側から「理学療法士に仕事を奪われている」と感じる声もあるようです。
とはいえ、日本においてはそのような懸念は今のところ現実的ではありません。
むしろ「業務を奪われている」と感じやすいのは理学療法士のほうかもしれません。
というのも、理学療法士の行うリハビリテーションは独占業務ではなく、法的には他職種が行っても問題ないとされています。
実際、看護師も日常的に機能訓練や可動域訓練を行っていますし、特別支援学校の教員も授業の一環として身体機能に働きかける活動を取り入れることがあります。
そんな中で、理学療法士に求められているのは、やはり「専門性の高い理学療法の知識と技術」なのだと思います。
理学療法士は「名称独占」の資格であり、「医師の指示のもと」に業務を行うことが定義されています。
つまり、医師の管理下でなければ、理学療法士として活動することができません。
また、理学療法士には「開業権」がありません。
看護師は一定条件下で訪問看護ステーションを開設することができますが、理学療法士単独でリハビリ施設を立ち上げることはできません。
理学療法士が独立を目指す場合、医師や看護師と連携して診療所や訪問看護ステーション、デイサービスなどを設立する必要があります。
それも、協力してくれる医師や看護師がいればの話になります。
そのため、理学療法士が独立を目指す場合には、自らの専門性を活かした「別の形のサービス提供」が求められることになります。
たとえば、整体師として活動したり、健康運動指導士やスポーツインストラクターといった道を選ぶ方も少なくありません。
一方で、鍼灸師には開業権があります。
また、医師の「指示」は不要で、患者さんが希望し、医師の「同意書」があれば、保険での施術も可能です(対応疾患に限る)。
さらに、自費診療であれば、自由なスタイルでリハビリやケアを組み合わせた施術を行うこともできます。
理学療法士と比べても、鍼灸師のほうが独立性が高く、裁量の大きい働き方ができるという特徴があります。
それにもかかわらず、理学療法士に鍼を認めることで「鍼灸師の仕事が奪われるのでは」と危機感を抱く声があるのは、もしかすると「保険診療」という制度への依存が影響しているのかもしれません。
🌟 保険診療とリハビリの限界、自費診療の価値
保険診療は医師が治療が必要と判断したとき保険診療が適応されます。
つまり病気の早期発見のための人間ドックでは保険適応されず、全額実費を払うことになります。
何万もかかる人間ドックを受ける人はたくさんいます。
健康のためにお金をかける人もいます。
保険適応のリハビリには1回の治療時間やリハビリができる期間が限られています。
そのため、思うようなリハビリ効果が得られないこともあります。
いかに効果的なリハビリが行えるかが重要です。
リハビリ期間が過ぎてしまった場合、そのまま終了するか、自費で継続するかかになってしまいます。
鍼灸師にも保険適応になる疾患があります。
かなり使いづらいですが。。
結局のところ患者さんのニーズに応えられるかです。
患者さんが必要と感じられれば自費だろうが何だろうと来ます。
🌟 ドライニードルとは?西洋医学に基づく鍼治療
ところで、アメリカの一部の州で理学療法士に認められている「ドライニードル」という手技。いったいどのような施術なのでしょうか?
おそらく、鍼灸学校に通う理学療法士の多くは、この技術を本格的に学びたいという理由で入学しているのではないかと思います。
ドライニードルとは、非常に細い糸状の鍼(いわゆる毫鍼)を皮膚に刺入し、筋肉や筋膜、結合組織のトリガーポイントと呼ばれる部位を直接刺激することで、筋緊張を緩め、疼痛を軽減する施術です。
東洋医学で用いられる「経絡」や「ツボ」の概念は用いられず、西洋医学における解剖学・神経学・筋骨格系の知識に基づいてアプローチされるのが特徴です。
実際のリハビリ現場では、動作に支障をきたす要因として、「痛みが強くて動けない」「筋肉の拘縮が強くて関節が動かない」といったケースが頻繁に見られます。
痛みに対しては鎮痛薬によるコントロール、拘縮に対しては徒手療法やストレッチを用いて、まず筋肉をほぐすところからリハビリが始まります。
しかし、そこに多くの時間を取られてしまい、十分なリハビリ効果を引き出せないままセッションが終わってしまうことも少なくありません。
もし理学療法士がドライニードルを使用できれば、痛みの軽減や拘縮の緩和といった効果が得られ、よりスムーズに本来のリハビリ訓練へと移行できる可能性があります。
つまり、ドライニードルは「治療の補助」ではなく、リハビリを円滑に進めるための「前処置」として非常に有効なツールになり得るのです。
🌟 ドライニードル導入の課題と診療報酬の壁
ドライニードルは解剖学や神経学に基づいて行うため、東洋医学の「経絡」や「ツボ」の知識は前提とされません。
そのため、もし今後、日本でも理学療法士がこの手技を正式に行えるようになれば、現在のように鍼灸学校に通って「はり師」の国家資格を取得する必要はなくなるかもしれません。
理学療法士養成課程にドライニードルの基礎が導入されたり、認定資格制度として独立したカリキュラムが整備されたりする可能性もあります。
しかし、ドライニードルを安全に行うには、使用する鍼や衛生資材にかかるコストも無視できません。
1回あたりの施術費用だけでなく、研修や認定制度自体にも数十万円の費用がかかる可能性があります。
もうひとつ大きな課題は「診療報酬の扱い」です。
たとえ制度としてドライニードルが認められたとしても、それが診療報酬に反映されなければ、現場では十分に活用されない可能性があります。
実際に、医師の指示を受けて働く多くの医療従事者が、認定資格や専門技術を取得しても、それが給与に反映されず「宝の持ち腐れ」になってしまっている現状もあります。
ドライニードルも同様で、もし診療報酬が加算されないままでは、忙しい臨床現場で「時間を割いてまでやるべきか」と判断され、普及が進まない恐れがあります。
医療制度の中で本当に治療効果の高い技術が評価される仕組みづくりが求められていると感じます。
一方で、「自分の身体をよくしたい」と真剣に考える方の中には、制度に頼らず、自費での施術やリハビリを積極的に取り入れる方も増えています。
そういった方にとって、ドライニードルや鍼灸のようなアプローチは、医療とリハビリの架け橋となる選択肢として、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
🌟 理学療法士が鍼を使える日は来るのか?
日本では、医師や鍼灸師の指導・監督なしに理学療法士が鍼を扱うことは、法律上は認められていません。
一部の現場では「医師の指示のもとであれば、鍼を物理療法の一環として使用できるのでは?」という意見もありますが、現行法ではそのような運用は明確に認められていないのが実情です。
現在、理学療法士は医師の指示に基づき、電気刺激や温熱といった物理療法を日常的に実施しています。
今後、鍼についても専門的な研修や資格制度が整備され、法的に位置づけられることがあれば、医師の管理下で理学療法の一部として鍼を活用できる可能性も考えられます。
🌟 鍼灸とリハビリの相乗効果:患者さんの利益とは
鍼灸には、血流の促進や鎮痛作用、自律神経のバランス調整といった効果があり、これらはリハビリと組み合わせることで、機能回復をよりスムーズに進める助けとなります。
実際にKagaya自身も、拘縮が強い方や麻痺で動かしにくい方に対して、まず鍼で局所の緊張を和らげてからリハビリを開始することで、より高い効果を実感しています。
患者さんのQOL(生活の質)を高めるためには、保険が適用されるかどうか以上に、「いまこの人に本当に必要な支援」を見極めて提供することが、もっとも大切だと考えています。
🌟 自費診療という選択肢と将来性
現在の制度では、ドライニードルが診療報酬に含まれることは難しく、自費対応が前提になります。
しかし、すでに多くの方が高額な人間ドックや整体・美容施術に自費で投資している現実を考えれば、「効果がある」と感じてもらえればニーズは十分にあります。
特に、訪問リハや慢性疼痛を抱える方、高齢者のケアでは「薬以外の選択肢」として、ドライニードルや鍼灸のようなアプローチはこれからますます重要になっていくと感じます。
保険適応にとらわれず、自費でも納得できるサービスを提供する姿勢が今後のカギになるのではないでしょうか。
🌟 セルフケアや家庭用ツールの活用も
なお、筋緊張や慢性のこり・痛みに対しては、ご自宅で使えるセルフケアグッズもおすすめです。例えば、筋膜リリースローラーや低周波治療器、鍼の代替としてのツボ刺激グッズなどがあります。
【おすすめセルフケアアイテム】
こうしたグッズを上手に活用することで、リハビリと併用してセルフケアができ、症状の悪化を防ぐことにもつながります。
🌟 鍼灸師として生き残るということ
どんな資格にも、それぞれの人が感じるメリットやデメリットがあると思います。
鍼灸師の資格を取得したからといって、必ずしも鍼灸師として働き続けられるとは限りません。実際、専門学校の1クラス30人のうち、5年後も現場で鍼灸を続けているのは1~2人程度とも言われています。
そこには、卒業後のフォロー体制や教育の仕組み、そして現場での定着支援など、鍼灸業界全体の課題もあるのかもしれません。
たとえ将来的に、理学療法士にドライニードルの手技が認められたとしても、鍼灸師の仕事がすぐに奪われるとは考えていません。
理学療法士は、あくまでリハビリの一環としてこの技術を用いることが想定されており、治療全体を鍼灸的視点から捉える立場とは異なるからです。
とはいえ、もし理学療法士に開業権が与えられた場合、そのときは鍼灸師の立場も大きく影響を受けるかもしれません。
でも、それを恐れて立ち止まるよりも、自分の技術や治療スタイルを磨き続けることのほうが、よほど価値があるとKagayaは感じています。
もし他職種のスキルや制度に魅力を感じるなら、学び直して取得を目指すという選択もできますし、鍼灸師という立場にこだわらず柔軟に自分の道を探すのも良いと思います。
どの職種であっても、社会のニーズに応えられなければ、これからの時代を生き残るのは難しいかもしれません。
実際、訪問看護ステーションや病院、クリニックでさえ、経営が厳しくなり閉鎖するケースも珍しくない時代です。
「治療」とは、目の前の患者さんの悩みに寄り添い、信頼関係を築くことから始まる――。
その原点を忘れずにいれば、どんな変化の時代でも、道は拓けるはずです。
そして、Kagayaは願っています。
鍼灸と理学療法、それぞれの強みが連携し、より効率的で効果的なリハビリが患者さんに提供できる未来が訪れることを。
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