
脊髄損傷という言葉は、どうしても「元に戻るのか」「回復するのかしないのか」という二択で語られやすいテーマです。
医療の現場でも、画像所見や麻痺のレベル、歩行が可能かどうかといった指標が、大きな判断基準になることは少なくありません。
けれど、日々の生活に目を向けてみると、その人の暮らしを支えているのは「元に戻ったかどうか」だけではないことが見えてきます。
起き上がるときの身体の使い方。
車椅子への移乗の仕方。
長く座っていた後の疲れ方や、夜にどれだけ眠れるか。
そうした一つひとつの積み重ねが、その人の生活のしやすさや、心の安定に大きく影響していきます。
実際の生活では「今ある身体で、どう使っていくか」という視点の方が、回復の有無以上に重要になる場面も少なくありません。
きらぼしでは、脊髄損傷を「治る・治らない」という枠だけで捉えるのではなく、その人が今どんな身体で、どんな毎日を送っているのかというところから関わっていきます。
回復を目指すこと自体を否定するわけではありません。
けれど、回復だけを唯一の目標にしてしまうと、「できないこと」に意識が向きすぎてしまうこともあります。
本当はできている動き。
工夫しながら続けられている生活動作。
無意識に守っている身体のバランス。
そうした部分に目を向けることで、身体への信頼感や、「この身体でやっていける」という感覚が、少しずつ育っていくことがあります。
きらぼしが大切にしているのは、回復の有無だけに焦点を当てるのではなく、「その人らしい身体の使い方」を一緒に探していくことです。
それは、誰かの基準に合わせることではなく、健常者の動きを目指すことでもありません。
無理をしすぎていないか?
どこかに力が入りっぱなしになっていないか?
安心して動けているか?
そうした視点から身体を見直し、今の状態に合った使い方を整えていくことが、結果的に生活の安定や、その人らしさを守ることにつながっていくと考えています。
🌟 脊髄損傷で起こりやすい身体の変化
脊髄損傷があると「麻痺があるかどうか」「動かせる・動かせない」といった点に注目されがちです。
けれど実際には、麻痺の有無に関わらず、身体の中ではさまざまな変化が静かに積み重なっていきます。
よく見られる変化としては、
- 筋緊張のアンバランス
- 関節の動かしにくさ・拘縮
- 姿勢の崩れ
- 呼吸の浅さ
- 疲れやすさ
これらの変化は「動かないから起こる」という単純な理由だけでは説明できません。
脊髄損傷によって、神経の伝わり方や、身体への指令の出方が変わると、同じ動作をしていても、使われる筋肉や力の入り方が偏りやすくなります。
例えば、ある部分は過剰に緊張し続け、別の部分はほとんど使われなくなる。
その状態が続くことで、筋緊張のアンバランスが生じ、関節の動きが少しずつ制限され、姿勢にも影響が出てきます。
姿勢が崩れると、胸郭の動きが小さくなり、呼吸が浅くなりやすくなります。
呼吸が浅くなると、酸素の取り込みが効率よく行えず、「特別なことをしていないのに疲れる」「少し動くだけで消耗する」といった感覚につながることもあります。
また、こうした身体の変化は、一気に現れるものではありません。
日々の動作や姿勢、介助のされ方、長時間同じ姿勢で過ごすことなど、生活の中での積み重ねによって、少しずつ形づくられていきます。
だからこそ、「今はまだ困っていない」「特に痛みはない」という段階でも、身体の使われ方には注意が必要です。
きらぼしでは、こうした変化を「仕方ないもの」として放置するのではなく、なぜその緊張が生まれているのか?どこに負担が集まりやすいのか?を丁寧に見ていきます。
症状や診断名だけではなく、その人が日々どんな姿勢で、どんな動作を繰り返し、どんな場面で疲れを感じているのか。
そうした視点から身体を捉えることで、今後起こりやすい変化を予測し、「これ以上つらくならないためのケア」につなげていくことができます。
🌟 「正しい動き」より「続けられる使い方」
リハビリの現場では「正しい姿勢」「理想的な動き」が大切にされることがあります。
それはもちろん、関節や筋肉への負担を減らし、二次的な障害を防ぐために必要な視点でもあります。
ただ、ここでひとつ落とし穴があります。
理想の動きが分かっていても、その動きを毎日の生活の中でずっと再現し続けるのは難しいということです。
朝の支度。
仕事や通学。
家事や移動。
介助を受けるタイミングの違い。
疲労や睡眠不足。
生活の中には、身体の状態を毎回“理想”に合わせてくれる余白は、意外と多くありません。
だから日常生活では「正しさ」よりも、無理なく続けられることの方が、結果的に身体への負担を減らすことも少なくありません。
無理なフォームで頑張り続けるより、その日のコンディションでも破綻しない動き。
疲れていても安全にできる動作。
痛みや緊張を溜め込まない工夫。
そういった「続けられる使い方」は、身体を守るうえでとても現実的な味方になります。
きらぼしでは、動作を無理に矯正するのではなく、今の身体で、どこに力が入りすぎているか?どこが頑張りすぎて支えているか?を丁寧に見ていきます。
例えば、移乗のたびに肩や首が固まる。
座位を保つために背中が緊張し続ける。
体幹の代わりに腕や手指で支えすぎている。
こうした「頑張り方のクセ」は、本人が気づかないうちに積み重なり、痛み・こり・疲労の蓄積につながっていきます。
だからこそ “正しい動き”を教える前に、今の動きが、どんな負担を生んでいるのか?どこを守る必要があるのか?を一緒に整理していきます。
続けられる使い方とは、妥協ではありません。
その人の生活の中で、安全に、現実的に、長く保てる形を見つけること。
そして「できている動き」を守り、「できないことを増やさない」ための選択です。
🌟 看護 × 鍼灸で支える、きらぼしのサポートと利用するメリット

脊髄損傷のケアについて考えるとき、多くの方がまず思い浮かべるのはリハビリだと思います。
リハビリは、失われた機能の回復や、動作の獲得・改善を目的とした、とても重要な支援です。
きらぼしは、そのリハビリを否定したり、代わりになることを目指しているわけではありません。
きらぼしが担っているのは、リハビリの外側にある「生活の中の負担」を支える役割です。
リハビリでは「できるようになる動き」「改善を目指す機能」といった視点が中心になります。
一方、きらぼしでは、まず次の問いから始まります。
「今の生活で、どこが一番つらいのか」
「どの動作のあとに疲れが強く残るのか」
「毎日続ける中で、どこに無理が溜まっているのか」
つまり、評価や訓練を起点にするのではなく、生活そのものを起点に身体を見ていくのが、きらぼしのスタンスです。
看護の視点では、生活動作や一日の過ごし方、介助の入り方や疲労の出方を確認し、日常の中で繰り返されている負担を整理します。
リハビリでは問題ないとされている動作でも、実際の生活では、長時間同じ姿勢が続いたり、体調や疲労の波の中で行われたりします。
そうした条件の違いによって、特定の部位に無理が集中し、本人も気づかないうちに、身体が消耗していくことがあります。
鍼灸の視点では、その結果として生じている、過剰な筋緊張や身体のアンバランスに働きかけます。
使われすぎている筋の緊張をゆるめ、使われにくくなっている部分に刺激を入れることで、身体が自然に動ける余白を整えていきます。
ここで大切にしているのは「できることを増やす」ための訓練ではなく、「今できていることを、壊さずに続ける」という考え方です。
きらぼしを利用するメリットは、生活の中で起きている負担と、身体の内側で起きている緊張を、同時に見直し、調整できる点にあります。
「リハビリは続けているけれど、動作は楽にならない」
「病院では様子見と言われたが、疲れや痛みが増えている」
そうした声は、リハビリと生活のあいだに、ケアの空白が生まれているサインでもあります。
きらぼしは、その空白を埋めるための場所です。
目指しているのは、急激な変化や劇的な回復ではありません。
「これ以上つらくならない」
「今の身体で、明日も同じ生活ができる」
「安心して日常を続けられる」
そのための 現実的で、生活に根ざしたケアを、看護と鍼灸の両面から支えていく。
リハビリと対立するのではなく、リハビリを続けていくための土台を整える。
それが、きらぼしを利用する大きなメリットです。
🌟 その人らしい身体の使い方とは

「その人らしい身体の使い方」という言葉は、少し抽象的に聞こえるかもしれません。
けれど、きらぼしが考えるその人らしい身体の使い方とは、「健常者の動きに近づけること」ではありません。
誰かの理想的なフォームや、教科書通りの動きを目標にするのではなく、今その人が生きている生活に、身体がついていけているかという視点を大切にしています。
脊髄損傷があると、どうしても「できないこと」に目が向きやすくなります。
以前はできていた動き。
周囲と同じようにはできない動作。
時間がかかること、介助が必要なこと。
そうした比較の中で、知らず知らずのうちに、身体にも心にも力が入りすぎてしまうことがあります。
しかし、日常生活を支えるうえで本当に大切なのは、次のような感覚です。
- 無理をしすぎていないか
- 痛みや緊張を溜め込んでいないか
- 安心して動けているか
例えば、「正しい姿勢」を意識しすぎるあまり、一日中どこかに力が入りっぱなしになっている。
あるいは、転倒や失敗を恐れて、動くこと自体に強い緊張が生まれている。
それでは、たとえ見た目が整っていても、身体は少しずつ消耗していきます。
その人らしい身体の使い方とは、「頑張らなくても続いている状態」「力を抜いても崩れない使い方」を指します。
多少形が崩れていても、時間がかかっても、終わったあとに強い疲労や痛みが残らない。
次の日も、また同じ動作をしようと思える。
それくらいの余白があることが、生活を続けていく上ではとても重要です。
また、「その人らしさ」は、
身体の状態だけで決まるものでもありません。
生活環境。
仕事や役割。
家族との関係。
介助を受ける頻度や方法。
そうした背景によって、無理のない身体の使い方は一人ひとり異なります。
だからこそ「この動きが正解」「ここまでできなければいけない」という基準を押しつけることはしません。
今の生活の中で、どこが楽で、どこがつらく、どんな場面で不安が出やすいのか。
そこを丁寧に見つめ直しながら、その人の生活を支える身体を、一緒に整えていきます。
無理をしすぎない。
痛みを溜め込まない。
安心して動ける。
そうした小さな積み重ねが「この身体で、これからも暮らしていける」という実感につながり、その人らしい日常を静かに支えていきます。
🌟脊髄損傷ケアの目安
脊髄損傷による不調は、ある日突然起こった出来事のように感じられても、実際の身体のつらさは、日々の生活の中で積み重なってきた負担として現れていることが少なくありません。
動作や姿勢に気を配りながら過ごしてきた日々。
「これくらいなら大丈夫」と無理を重ねてきた時間。
そうした積み重ねが、痛み・こり・疲労・緊張感といった形で、少しずつ身体に表れてきます。
そのため、脊髄損傷のケアは、1回の施術で劇的に変化するものではありません。
これは「変わらない」という意味ではなく、生活の中で生じてきた負担を、段階的にほどき、整え直していく時間が必要だということです。
きらぼしでは、約6か月間をひとつの目安として、身体の状態と生活リズムに合わせた、段階的なケアを行っています。
【第1段階:導入・緩和期|0〜2か月】
目安:1〜2週間に1回
この時期は、身体のどこかが常に頑張り続け、緊張が抜けにくい状態にあります。
施術では、過剰に使われている部分の緊張をゆるめ、呼吸や姿勢が楽になるきっかけをつくっていきます。
この段階で多くの方が感じる変化は、「動きが良くなる」よりも、身体の負担が軽くなる感覚です。
- 同じ姿勢でいるのが、少し楽になった
- 動いたあとの疲れが残りにくい
- 力を抜く感覚がわかってきた
- 呼吸が深くなった気がする
【第2段階:安定・調整期|2〜4か月】
目安:2〜3週間に1回
この段階では「調子の良い日」と「つらさが出る日」の差が、少しずつ小さくなっていきます。
不調が出たとしても、回復までの時間が短くなり、立て直しやすさが育ってくるのが特徴です。
【第3段階:定着・移行期|4〜6か月】
目安:月1回
整った状態を身体に定着させ、セルフケアや日常の調整を中心とした生活へ移行していきます。
この時期には「崩れにくさ」「無理をしても戻れる感覚」が少しずつ育ってきます。
6か月以降は、体調や生活環境の変化に応じて、メンテナンスケアへ移行していきます。
脊髄損傷のケアでは「良くなった」「悪くなった」と結果だけを見るのではなく、揺れながらも、回復できる幅が広がっていくことが大切です。
きらぼしでは、回数券の購入や、無理な頻度での通院を勧めることはありません。
生活環境、介助の状況、体調の波は人それぞれです。
「これなら生活を崩さずに続けられる」そう感じられるペースを、一緒に相談しながら決めていきます。
焦らず、比べず、今の身体に合ったスピードで整えていく。
その過程を支えることが、きらぼしの脊髄損傷ケアの役割だと考えています。
🌟 相談について
「いきなり予約するほどではないけれど、少し話を聞いてほしい」
「これって鍼灸で相談していいことなのかわからない」
そんな段階の方のために、LINEでの相談窓口を設けています。
症状のこと、生活のこと、働き方のこと。
はっきり整理されていなくても構いません。
今感じている違和感を、そのまま言葉にしてもらって大丈夫です。

