
🌟八綱病証
八綱病証(はっこうびょうしょう)は、東洋医学におけるもっとも基本的な病証分類法です。
病気の位置(病位)、性質(病性)、勢い(病勢)を把握するために、陰陽・表裏・寒熱・虚実という4つの概念を組み合わせて診断を行います。
これら4つの項目を統合的に理解することで、症状の全体像を把握し、適切な治療方針(弁証施治)を立てることができます。
以下に、それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。
- 陰陽:八綱全体を統括する概念。すべての証を「陽証」または「陰証」に大別する。
- 陽証:表証・熱証・実証など、比較的浅く、活動的な病状。
- 陰証:裏証・寒証・虚証など、比較的深く、機能低下や寒冷的な病状。
- 表裏:病気の存在する部位(浅い or 深い)を示す。
- 表証:体表面(皮膚・筋肉など)に現れる初期症状。例:悪寒・発熱。
- 裏証:体の深部(内臓)にある病。例:腹痛・便秘・下痢など。
- 寒熱:病の性質や寒暖の状態。
- 寒証:冷え、顔面蒼白、寒がり、小便が透明など。
- 熱証:発熱、口渇、便秘、小便が濃いなど。
- 虚実:正気(からだの力)と邪気(病因)の盛衰のバランス。
- 虚証:正気が不足している状態。例:倦怠感・息切れ・汗をかきやすい。
- 実証:邪気が過剰で、体内に抵抗力があり症状が強く現れる。
八綱病証は、単体ではなく複数の概念を組み合わせて用いることが多いです。
たとえば「表寒実証」や「裏熱虚証」のように、病位・性質・勢いを総合的に見て判断します。
以下の表に、八綱病証それぞれの代表的な症候、舌苔、脈象をまとめました。
証 | 症候 | 苔 | 脈 |
表証・熱傷・実証 | 顔面紅潮・活気がある・言葉が多い・手足を伸ばす・炎症・充血・発熱 | 紅 | 浮・数・滑・洪・実 |
裏証・寒証・虚証 | 顔面蒼白・気分が沈鬱して活気がない・言葉が少ない・手足を縮める・悪寒・冷え | 淡胖 | 遅・弱・細・微 |
さらに、以下の表では各八綱病証の詳細な症候と対応する舌・脈所見をまとめています。
証 | 症候 | 苔 | 脈 |
表 | 悪寒・発熱・頭痛・項強・腰背痛・四肢関節痛 | 浮 | |
半表半裏 | 往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・眩暈 | 弦 | |
裏 | 悪熱・口渇・便秘・腹部膨満・腹痛・下痢 | 厚 | 沈 |
寒 | 悪寒・手足の冷え・顔面蒼白・寒性の下痢・小便が澄んで量が多い・口唇色は淡白 | 白で湿潤 | 遅 |
熱 | 発熱・煩躁・顔が赤くほてる・大便秘結・小便は赤濁し量が少ない・口渇 | 黄 | 数 |
虚 | 呼吸や語勢が弱い・自汗・下痢・小便頻数・筋肉に弾力性がない・喜按 | 濡、弱、微、虚 | |
実 | 呼吸や語勢が荒く強い・無汗・便秘・小便の回数が少ない・筋肉に弾力性がある・拒按 | 弦、洪、滑、実 |
国家試験では、「八綱病証の定義」「正しい証と症候の組み合わせ」「弁証に必要な情報の読み取り方」などが頻出です。
表の情報だけでなく、弁証→証明→治療方針へとつなげる力を養っていきましょう。
🌟六経弁証
六経弁証(ろっけいべんしょう)とは、漢方の古典『傷寒論』に基づいた病証分類法です。
外感病(風寒の邪)が人体に侵入し、経過とともに病が深くなっていく様子を、「太陽・少陽・陽明・太陰・少陰・厥陰」の6段階に分けて整理します。
これは、病位(表裏)・病性(寒熱)・病勢(虚実)の変化を段階的に捉えるのに非常に有効な方法です。
六経はそれぞれ、特定の身体の部位や症状、脈状、舌苔と対応しています。
また、臨床では「表証から裏証へ」「実証から虚証へ」と進行する過程を理解することで、治療方針の判断に活かされます。
以下の表では、各六経の証型とその代表的な症候をまとめています。
六経 | 証型 | 主な症状 |
太陽病 | 表証・実証 | 悪寒・発熱・頭痛・項強痛・脈浮 |
少陽病 | 半表半裏証・実証 | 寒熱往来・胸脇苦満・口苦・眩暈・脈弦 |
陽明病 | 裏実熱証 | 激しい汗・壮熱・激しい口渇・潮熱・大便秘結・黄苔・脈洪 |
太陰病 | 裏虚証(寒証) | 食欲不振・腹部膨満感・水様便・疲労感・冷え |
少陰病 | 裏虚証(寒または熱) |
虚寒証:四肢厥冷・精神疲労・水様便 虚熱証:心煩・不眠・微熱 |
厥陰病 | 寒熱錯雑証 | 胸部不快感・激しい口渇・四肢厥冷・嘔吐・下痢・冷えと熱の交互出現 |
それぞれの六経には、以下のような特徴的なポイントがあります:
- 太陽病:最初に風寒が侵入したときの表証。悪寒>発熱が特徴。
- 少陽病:病が少し深くなり、表と裏の中間に位置。寒熱往来や胸脇部の張りを訴える。
- 陽明病:強い熱が内側(裏)にこもった状態。発熱・口渇・便秘がキーワード。
- 太陰病:脾虚による裏寒証。消化器系の弱りによって下痢・倦怠感が現れる。
- 少陰病:寒証または熱証に分かれる。寒証では四肢の冷え、熱証では心煩・不眠が特徴。
- 厥陰病:病の最終段階。寒と熱が交互に出るような混雑した症状を示す。
このように、六経は単なる分類ではなく、病邪の進行や変化の過程を時系列的に捉える枠組みでもあります。
国家試験では、各六経とその証型を適切に結びつける設問や、症候から弁証を導き出す形式が頻出です。
特に注意したいのは、太陽・少陽・陽明が「陽経」であり、太陰・少陰・厥陰が「陰経」である点。陽から陰へと進むことで、表証→裏証、実証→虚証へと移行する流れを把握しておくと、弁証の組み立てがしやすくなります。
表現を覚えるだけでなく、「どの段階で、どの治療法を用いるか」を意識して学習すると、より実践的な力が身につきます。
次の章では、「国家試験過去問」を通して、六経弁証と八綱病証の理解をさらに深めていきましょう。
🌟鍼灸国家試験過去問
第11回-109
東洋医学の治療について誤っている記述はどれか。
- 補瀉は虚実に応じて行う。
- 標治法は経絡の変動を調整する。 〇
- 弁証施治は八綱病証を用いる。
- 正治とは順証に対する治法である。
第12回-97
東洋医学の特色で適切でないのはどれか。
- 未病を治す。
- 本治による病では奇穴を用いる。〇
- 四診によって証の決定を行う。
- 虚実に基づいて補瀉を施す。
第3回-107
「消渇」の現代病名はどれか。
- 糖尿病 〇
- 心筋梗塞
- 高血圧症
- 悪性新生物
第21回-100
気が逆行して起こる病の総称はどれか。
- 疝
- 積聚
- 厥 〇
- 痹
第22回-101
痹証で重だるい痛みはどれか。
- 熱痹
- 行痹
- 痛痹
- 着痹〇
第2回-107
寒証でないのはどれか。
- 小便は少なく赤い。 〇
- 手足の厥冷
- 遅脈
- 温かいものを好む。
第3回-104
正邪の盛衰を診るのはどれか。
- 燥湿
- 寒熱
- 虚実 〇
- 表裏
第8回-104
八綱病証で病勢を示すのはどれか。
- 陰陽
- 表裏
- 寒熱
- 虚実〇
第9回-106
八綱のうち病証を総括するのはどれか。
- 虚実
- 陰陽〇
- 表裏
- 寒熱
第10回-102
八網病証で疾病の性質を示すのはどれか。
- 虚実
- 陰陽
- 寒熱 〇
- 表裏
第19回-102
八綱病証で実証はどれか。
- 疼痛部を押すと痛みが増強する。 〇
- 長期間微熱が続いている。
- 小便の回数が多い。
- 鈍痛が持続している。
第6回-110
三陰三陽病証で往来寒熱、胸脇苦満が現れるのはどれか。
- 太陰病
- 太陽病
- 少陰病
- 少陽病〇
第9回-102
熱証の特徴でないのはどれか。
- 下痢 〇
- 発汗
- 口渇
- 動悸
第13回-107
六経病証で病邪が最後に達するのはどれか。
- 陽明経
- 厥陰経 〇
- 少陽経
- 太陰経
第14回-104
半表半裏証でみられないのはどれか。
- 悪風 〇
- 往来寒熱
- 口が苦い
- 胸脇苦満
第14回-107
三陰三陽六病位と体幹の部位との組合せで誤っているのはどれか。
- 厥陰 ─── 側面の裏
- 太陽 ─── 背面の表
- 太陰 ─── 背面の裏 〇
- 陽明 ─── 腹面の表
第15回-103
六経病証について正しい組合せはどれか。
- 太陰経病 ─── 咽頭が渇く。 〇
- 少陽経病 ─── 陰嚢が縮む。
- 少陰経病 ─── 難聴が起こる。
- 厥陰経病 ─── 腰背が強ばる。
第17回-98
熱証にみられないのはどれか。
- 鼾声
- 小便自利 〇
- 口渇
- 月経先期
第20回-102
「頭痛、首と肩がこる、手足の関節が痛む、厚着をしても寒い、微熱、薄白苔、緊脈。」 最も考えられる病証はどれか。
- 裏寒
- 表熱
- 裏熱
- 表寒〇
第26回-90
次の文で示す傷寒論の六経病証はどれか。 「胸中の灼熱様の痛み、激しい口渇、空腹だが飲食ができない、四肢厥冷、嘔吐、下痢。」
- 陽明病
- 少陰病
- 太陽病
- 厥陰病〇
第26回-96
次の文で示す患者の病証はどれか。 「最近、息切れと無力感があり動くと汗が出る。顔色は蒼白く、不眠、舌質は淡嫩。脈は細弱。」
- 気血両虚 〇
- 気不摂血
- 気虚血瘀
- 気滞血瘀
第29回-98
三陰三陽病と症状の組合せで正しいのはどれか。
- 少陰病 ─── 臥床を好む 〇
- 太陰病 ─── 便秘
- 陽明病 ─── めまい
- 少陽病 ─── 項のこわばり
第29回-101
病証において虚実挟雑証でないのはどれか。
- 肝陽上亢
- 風熱犯肺 〇
- 脾虚湿盛
- 心腎不交
第29回-106
腰殿部外側と大腿外側の脹痛に対して、侠渓を取穴した治療の法則はどれか。
- 循経取穴 〇
- 分刺による取穴
- 局所取穴
- 難経六十九難の取穴
第30回-103
次の文で示す病証の治療原則で最も適切なのはどれか。 「慢性の眩暈と頭痛、目の充血、のぼせ、腰がだるく力が入らない。脈は弦細数を認める。」
- 補虚瀉実 〇
- 急則治標
- 瀉実
- 因地制宜
第30回-104
次の文で示す患者の病証で最も適切なのはどれか。 「46歳の男性。主訴は肩こり。1年以上テレワークで外出機会が減少し、ストレスを感じている。胸肋部痛と喉のつかえ感を伴う。」
- 血虚
- 陰虚
- 湿熱
- 気滞〇
🌟まとめ|八綱病証と六経弁証の要点を整理しよう
東洋医学の病証分類における基礎の柱である「八綱病証」と「六経弁証」。
どちらも病の状態や進行を見極めるために欠かせない診断枠組みです。
- 八綱病証では、病気の全体像を「陰陽・表裏・寒熱・虚実」でとらえ、臨床像を統合的に判断。
- 六経弁証は、傷寒論に基づき、病邪の進行・深度を6段階で説明。経過に応じた変化を理解するのに有効。
- いずれも弁証論治(症状の把握→証の判定→治療法の選定)における重要な基盤となる。
国家試験では、症候の組み合わせや証の特徴を問う問題が頻出します。
特に、証と症状・脈・舌との結びつきを意識して覚えることが得点に直結します。
今回ご紹介した表や解説を活用しながら、繰り返しアウトプットして暗記+理解を深めていきましょう。
\ まとめて覚えたい人向け! /
八綱病証や六経弁証の一覧表をプリントして、机の前に貼るのも効果的です📄